夏休み到来

 夏、真っ盛りと云うのに、ナント、扇風機が壊れてしまった。日本の某電気メーカ製のもので使い始めて12年以上は経つ。フューズが切れていたので交換してみたが、残念ながら息を吹き返さなかった。原因は、20年前にスペイン駐在の始まりをきっかけに購入した旧式トランスにあった。

そのトランスに別れを告げ廃却処分すると同時に、止む無く大枚18ユーロをはたいてこちら製の扇風機を購入した。昔、銭湯の脱衣場でよく見かけたようなタイプである。“弱” にもかかわらず、回り出すとやたらと音がうるさいが、流石に風量は十分すぎるほどある。云うに及ばず、日本人が考える微細な “おやすみモード” などは装備されていない。就寝の際は、ベッドを防空壕がわりに (防空壕に入った経験は無い)、爆音と爆風から少しでも身を守るため、扇風機を部屋入口の廊下末端に配置し、爆撃機相当のプロペラから吐き出される風を南南東・仰角15度の天井方位に向け、還流を行っている。これでも、クーラーをつけっ放しにして体調を崩すよりは余程マシである。

尤も、70ユーロくらい出すとプロペラ方式ではなく、音も静かな縦長の太いパイプのような空気洗浄機タイプも買える。ところがそれを見た時、その昔、水洗トイレが無かった頃、必ずといってよいほど家々の屋外に備えられていた煙突の天辺でグルグル回っていた回転羽を想い出した。その時、これは無臭だと確信はしたが高価なことも相まって、このタイプの扇風機の購入を差し控えた。

温度は、日中になると40度近くにまで達するが、湿度が低いので特に日陰は過ごし易い。陽が落ち夜が訪れ、やがて明け方を迎える頃、屋外に冷気が漂い始める。この冷気を部屋の中に取込み、できるだけ長い時間閉じ込めておくことが睡眠を含め部屋での生活を快適に過ごすコツとなる。コツと云うとオーバだが、理屈はこうである。

つまりスペインの部屋の造りは魔法瓶に似ている。新鮮な冷気を取込んだ後、日中は窓を閉め切り、雨戸のようなブラインド全てを最下部まで下げ、陽と反射熱の侵入を遮断する。こうすることで、朝の新鮮な空気をある程度保つことができる。就寝の際は、強力な扇風機から吐き出される風の還流効果も加わり、快眠とまではいかないまでも汗を流しながら寝るようなことは無い。



アマポーラの道標
 

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